、鶏は生かして置こうじゃァないかと、到頭其まゝにして置いた、と云う逸話を話した。梁川君は首を傾《かし》げて聴いて居たが、「面白いな」と独語した。一座の話は多端に渉ったが、要するに随感随話で、まとまった事もなかった。唯愉快に話し込んで思わず時を移し、二時間あまりにして西田君列と前後に席を立った。
 其れから其足で三崎町の東京座に往って、舞台裏《ぶたいうら》で諸君のあとから彼もブース[#「ブース」に傍線]大将の手を握るの愉快を獲た。大将は肉体も見上ぐるばかりの清げな大男で、其手は昨年の夏握ったトルストイ[#「トルストイ」に傍線]の手の様に大きく温《あたたか》であった。午後には梁川君と語り、夜はブース[#「ブース」に傍線]大将の手を握る。四月十六日は彼にとって喜ばしい一日であった。嬉しいあまりに、大将の演説終って喜捨金集めの帽が廻った時、彼は思わず乏しい財布を倒《さかさ》にして了うた。
 其後梁川君とははがきの往復をしたり、回光録を贈ってもらったりしたきり、彼も田園の生活多忙になって久しく打絶えて居た。そこで此訃は突然であった。精神的に不朽な人は、肉体も例令其れが病体であっても猶不死の様に思
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