那は外にお職がおありなすって、お銭《あし》は土用干なさる程おありなさるから、と。一度百円札の土用干でもしたいものと思うが、兎に角外にお職がおあんなさる事は、彼自身|欺《あざむ》く事が出来ぬ。彼は一度だって農事講習会に出たことは無い。
美的百姓の家は、東京から唯三里。東の方を望むと、目黒の火薬製造所や渋谷発電所の煙が見える。風向きでは午砲《どん》も聞こえる。東京の午砲を聞いたあとで、直ぐ横浜の午砲を聞く。闇い夜は、東京の空も横浜の空も、火光《あかり》が紅《あか》く空に反射して見える。東南は都会の風が吹く。北は武蔵野である。西は武相それから甲州の山が見える。西北は野の風、山の風が吹く。彼の書院は東京に向いて居る。彼の母屋《おもや》の座敷は横浜に向いて居る。彼の好んで読書し文章を書く廊下の硝子窓は、甲州の山に向うて居る。彼の気は彼の住居《すまい》の方向の如く、彼方《あっち》にも牽《ひ》かれ、此方にも牽かれる。
彼は昔耶蘇教伝道師見習の真似をした。英語読本の教師の真似もした。新聞雑誌記者の真似もした。漁師の真似もした。今は百姓の真似をして居る。
真似は到底本物で無い。彼は終に美的百姓であ
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