つった》った時は、天も見ろ、地も見ろ、人も見てくれ、吾れながら天晴見事の百姓振りだ。額の汗を拭きもあえずほうと一息《ひといき》入れる。曇った空から冷やりと来て風が額を撫でる。此処《ここ》が千両だ、と大きな眼を細くして彼は悦《えつ》に入る。向うの畑で、本物の百姓が長柄の鍬で、後退《あとしざ》りにサクを切るのを熟々《つくづく》眺めて、彼運動に現わるゝリズムが何とも云えぬ、と賞翫する。小雨ほと/\雲雀《ひばり》の歌まじり、眼もさむる緑の麦畑に紅帯《あかおび》の娘が白手拭を冠って静に働いて居るを見ては、歌か句にならぬものか、と色彩《いろ》故に苦労する。彼自身肥桶でも担《かつ》いで居る時、正銘の百姓が通りかゝれば、彼は得意である。農家のおかみに「お上手ですねえ」とお世辞《せじ》でも云われると、彼は頗る得意である。労働最中に美装《びそう》した都人士女の訪問でも受けると、彼はます/\得意である。
 稀に来る都人士には、彼の甲斐々々しい百姓姿を見て、一廉《いっかど》其道の巧者《こうしゃ》になったと思う者もあろう。村の者は最早《もう》彼の正体《しょうたい》を看破して居る。田圃向うのお琴婆さんの曰くだ、旦
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