声を聞いた。其《それ》は権高《けんだか》な御後室様の怒声よりも、焦《じ》れた子供の頼無《たよりな》げな恨めしげな苦情声《くじょうごえ》であった。大君の御膝下《おひざもと》、日本の中枢《ちゅうすう》と威張る東京人も、子供の様に尿屎《ししばば》のあと始末をしてもらうので、田舎の保姆《ばあや》の来ようが遅いと、斯様に困ってじれ給うのである。叱られた百姓は黙って其|糞尿《ふんにょう》を掃除《そうじ》して、それを肥料に穀物蔬菜を作っては、また東京に持って往って東京人を養う。不浄を以て浄を作り、廃物を以て生命を造る。「吾父は農夫なり」と神の愛子は云ったが、実際神は一大農夫で、百姓は其|型《かた》を無意識にやって居るのである。
 衆議院議員の選挙権位は有って居る家の息子や主人《あるじ》が掃除に行く。東京を笠に被て、二百万の御威光で叱りつくる長屋のかみさんなど、掃除人《そうじにん》の家に往ったら、土蔵の二戸前もあって、喫驚《びっくり》する様な立派な住居に魂消《たまげ》ることであろう。斯く云う彼も、東京住居中は、昼飯時《ひるめしどき》に掃除に来たと云っては叱り、門前に肥桶《こえおけ》を並べたと云っては怒
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