もあるが、多くは車を街道に片寄せて置いて、木蔭《こかげ》で麦や稗《ひえ》の弁当をつかう。夏の日ざかりには、飯を食うたあとで、杉の木蔭に※[#「鼻+句」、第4水準2−94−72]々《ぐうぐう》焉と寝て居る。荷が重いか、路が悪い時は、弟や妹が中途まで出迎えて、後押して来る。里道にきれ込むと、砂利も入って居らぬ路はひどくぬかるが、路が悪い悪いとこぼしつゝ、格別路をよくしようともせぬ。其様な暇も金も無いのである。
甲州街道の新宿出入口は、町幅が狭い上に、馬、車の往来が多いので、時々肥料車が怪我《けが》をする。帰りでも晩《おそ》いと、気が気でなく、無事な顔見るまでは心配でならぬと、村の婆さんが云うた。水の上を憂うる漁師の妻ばかりではない。平和な農村にも斯様な行路難《こうろだん》がある。
東京|界隈《かいわい》の農家が申合せて一切下肥を汲まぬとなったら、東京は如何様《どんな》に困るだろう。彼が東京住居をして居た時、ある日|隣家《となり》の御隠居《ごいんきょ》婆《ばあ》さんが、「一ぱいになってこぼるゝ様になってるものを、せっせと来てくれンじゃ困るじゃないか」と疳癪声《かんしゃくごえ》で百姓を叱る
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