中には樺色の麁《あら》い毛糸の手袋をして、雨天には簑笠姿《みのかさすがた》で、車の心棒に油を入れた竹筒《たけづつ》をぶらさげ、空の肥桶の上に、馬鈴薯《じゃがいも》、甘薯《さつまいも》の二籠三籠、焚付《たきつけ》疎朶《そだ》の五把六束、季節によっては菖蒲《あやめ》や南天小菊の束なぞ上積にした車が、甲州街道を朝々幾百台となく東京へ向うて行く。午後になると帰って来る。両腕に力を入れ、前俛《まえかが》みになって、揉《も》みあげに汗《あせ》の珠《たま》をたらして、重そうに挽いて帰って来る。上荷には、屋根の修繕に入用のはりがねの二巻三巻、棕櫚縄《しゅろなわ》の十束二十束、風呂敷かけた遠路籠の中には、子供へみやげの煎餅の袋も入って居よう。かみさんの頼んだメリンスの前掛も入って居よう。或は娘の晴着の銘仙も入って居よう。此辺の女は大抵留守ばかりして居て、唯三里の東京を一生見ずに死ぬ者もある。娘の婚礼着すら男親が買うことになって居る。「阿爺《おとッつぁん》、儂《おら》ァ此《この》縞《しま》ァ嫌《やァ》だ」と、毎々|阿娘《おむす》の苦情が出る。其等の車が陸続として帰って来る。東京場末の飯屋《めしや》に寄る者
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