+虚」、第4水準2−88−74]《うそ》の様に廉《やす》い地面家作の売物《うりもの》があると云う。江州――琵琶湖東《びわことう》の地、山美しく水清く、松茸が沢山《たくさん》に出て、京奈良に近い――大に心動いて、早速郷里に照会《しょうかい》してもらったが、一向に返事が来ぬ。今時分田舎から都へ出る人はあろうとも、都から田舎にわざ/\引込《ひきこ》む者があろうか、戯談《じょうだん》に違いない、とうっちゃって置いたのだと云う事が後で知れた。江州の返事が来ない内、千歳村の石山氏は無闇《むやみ》と乗地《のりじ》になって、幸《さいわ》い三つばかり売地があると知らしてよこした。あまり進みもしなかったが、兎に角往って見た。
 一は上祖師ヶ谷で青山《あおやま》街道《かいどう》に近く、一は品川へ行く灌漑《かんがい》用水の流れに傍《そ》うて居た。此等《これら》は彼が懐《ふところ》よりも些《ちと》反別が広過ぎた。最後に見たのが粕谷の地所《じしょ》で、一反五畝余。小高く、一寸見晴らしがよかった。風に吹飛ばされぬようはりがねで白樫《しらかし》の木にしばりつけた土間共十五坪の汚ない草葺の家が附いて居る。家の前は右の樫
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