れ足曳きずって甲州街道を指して歩いた。何処《どこ》やらで夕鴉《ゆうがらす》が唖々と鳴き出した。我儕《われら》の行末は如何なるのであろう? 何処に落つく我儕の運命であろう? 斯く思いつゝ、二人は黙って歩いた。
 甲州街道に出た。あると云う馬車も来なかった。唯有《とあ》る店で、妻は草履《ぞうり》を買うて、靴をぬぎ、三里近い路をとぼ/\歩いて、漸く電燈の明るい新宿へ来た。
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     都落ち

       一

 二月ばかり経《た》った。
 明治四十年の一月である。ある日田舎の人が二人青山高樹町の彼《かれ》が僑居《きょうきょ》に音ずれた。一人は石山氏、今一人は同教会執事角田新五郎氏であった。彼は牧師に招聘《しょうへい》されたのである。牧師は御免を蒙る、然し村住居はしたい。彼は斯く返事したのであった。
 彼は千歳村にあまり気がなかった。近いと聞いた玉川《たまがわ》は一里の余もあると云う。風景も平凡《へいぼん》である。使って居た女中《じょちゅう》は、江州《ごうしゅう》彦根在の者で、其|郷里地方《きょうりちほう》には家屋敷を捨売りにして京、大阪や東京に出る者が多いので、※[#「言
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