》に幾個《いくつ》の孔《あな》があって、孔から一々縄が下って居る。其縄の一つが動く様なので、眼をとめて見ると、其縄は蛇だった。見て居る内にずうと引込んだが、またのろ/\と頭を出して、丁度他の縄の下って居ると同じ程《ほど》にだらりと下がった。何をするのか、何の為に縄の真似をするのか。鏡花君の縄張に入る可き蛇の挙動と、彼は薄気味悪くなった。
勇将の下に弱卒なし。彼が蛇を恐れる如く、彼が郎党《ろうとう》の犬のデカも獰猛《どうもう》な武者振をしながら頗る蛇を恐れる。蛇を見ると無闇《むやみ》に吠《ほ》えるが、中々傍へは寄らぬ。主人《あるじ》が勇気を出して蛇を殺すと、デカは死骸の周囲《まわり》をぐる/\廻って、一足寄ってはワンと吠《ほ》え、二足寄っては遽《あわ》てゝ飛びのいてワンと吠え、ワンと吠え、ワンと吠え、廻り廻って、中々傍へは寄らぬ。ある時、麦畑に三尺ばかりの山かゞしが居た。山かゞしは、やゝ精悍《せいかん》なやつである。主人が声援《せいえん》したので、デカは思切ってワンと噛みにかゝったら、口か舌かを螫《さ》されたと見え、一声《いっせい》悲鳴《ひめい》をあげて飛びのき、それから限なく口から白
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