畑から村と、遠く武蔵野につゞいて居る。

       六

 家の門口は東にある。出ると直ぐ雑木林。彼の有《もの》ではないが、千金|啻《ただ》ならず彼に愛される。彼が家の背《うしろ》に、三角形をなす小さな櫟林《くぬぎばやし》と共に、春夏の際は若葉青葉の隧道《とんねる》を造る。青空から降る雨の様に落葉《おちば》する頃は、人の往来《ゆきき》の足音が耳に立つ。蛇の巣《す》でもあるが、春は香の好いツボスミレ、金蘭銀蘭、エゴ、ヨツドヽメ、夏は白百合、撫子花、日おうぎ、秋は萩、女郎花、地楡《われもこう》、竜胆《りんどう》などが取々《とりどり》に咲く。ヨツドヽメの実も紅《くれない》の玉を綴《つづ》る。楢茸《ならたけ》、湿地茸《しめじだけ》も少しは立つ。秋はさながらの虫籠《むしかご》で、松虫鈴虫の好い音《ね》はないが、轡虫《くつわむし》などは喧しい程で、ともすれば家の中まで舞い込んでわめき立てる。今は無くなったが、先年まで其林の南、墓地の東隣に家があって、十五六の唖の兄と十二三になる盲の弟が、兄が提灯《ちょうちん》つけて見る眼を働かすれば、弟《おとうと》が聞く耳を立てゝ虫の音を指し、不具二人寄って一
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