まりは築《つ》き上げた品川堀の堤《つつみ》の藪《やぶ》だたみになって、其上から遠村近落の樫《かし》の森や松原を根占《ねじめ》にして、高尾小仏から甲斐東部の連山が隠見出没して居る。冬は白く、春は夢の様に淡《あわ》く、秋の夕《ゆうべ》は紫に、夏の夕立後はまさまさと青く近寄って来る山々である。近景の大きな二本松が此山の鏈《くさり》を突破《とっぱ》して居る。
 此山の鏈を伝うて南東へ行けば、富士を冠《かん》した相州連山の御国山《みくにやま》から南端の鋭い頭をした大山まで唯一目に見られる筈だが、此辺で所謂富士南に豪農の防風林《ぼうふうりん》の高い杉の森があって、正に富士を隠して居る。少し杉を伐ったので、冬は白いものが人を焦《じ》らす様にちら/\透《す》いて見えるのが、却て懊悩《おうのう》の種になった。あの杉の森がなかったら、と彼は幾度思うたかも知れぬ。然し此頃では唯其杉の伐られんことを是れ恐るゝ様になった。下枝《したえだ》を払った百尺もある杉の八九十本、欝然《うつぜん》として風景を締めて居る。斯杉の森がなかったら、富士は見えても、如何に浅薄の景色になってしまったであろう。春雨《はるさめ》の明けの
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