ひとかわ》脱《ぬ》いだ様で、己《わ》が体のあたりばかり涼しい気がそよぐ。縁から見ると、七分目に減《へ》った甕の水がまだ揺々《ゆらゆら》して居る。其れは夕蔭に、乾《かわ》き渇《かわ》いた鉢の草木にやるのである。稀には彼が出たあとで、妻児《さいじ》が入ることもある。青天白日、庭の真中で大びらに女が行水《ぎょうずい》するも、田舎住居のお蔭である。
夏は好い。夏が好い。
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低い丘の上から
一
彼は毎《つね》に武蔵野の住民と称して居る。然し実を云えば、彼が住むあたりは、武蔵野も場末《ばすえ》で、景が小さく、豪宕《ごうとう》な気象に乏しい。真の武蔵野を見るべく、彼の家から近くて一里強北に当って居る中央東線の鉄路を踏み切って更に北せねばならぬ。武蔵野に住んで武蔵野の豪宕|莽蒼《もうそう》の気を領《りょう》することが出来ず、且|居常《きょじょう》流水の音を耳にすることが出来ぬのが、彼の毎々繰り返えす遺憾である。然し縁なればこそ来て六年も住んだ土地だ。平凡は平凡ながら、平凡の趣味も万更捨てたものでもない。
彼の住居は、東京の西三里、玉川の東一里、甲州街道
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