たい位。つゞいて一方の足も入れると、一気に撞《どう》と尻餅《しりもち》搗《つ》く様に坐《す》わる。甕の縁《ふち》を越して、水がざあっと溢《あふ》れる。彼は悠然と甕の中に坐って、手拭を濡《ぬ》らして、頭から面《つら》、胸から手と、ゆる/\洗う。水はます/\溢れて流れる。乾いた庭に夕立のあとの如く水が流れる。油断をした蟻《あり》や螻《けら》が泡《あわ》を喰《く》って逃げる。逃げおくれて流される。彼は好い気もちになって、じいと眼をつぶる。眼を開《あ》いて徐に見廻わす。上には青天がある。下には大地がある。中には赤裸《あかはだか》の彼がある。見物人は、太陽と雀と虫と樹と草と花と家ばかりである。時々は褌の洗濯もする。而してそれを楓《かえで》の枝に曝《さ》らして置く。五分間で火熨斗《ひのし》をした様に奇麗に乾く。
 十分十五分ばかりして、甕を出る。濡手拭《ぬれてぬぐい》を頭にのせたまゝ、四体は水の滴《た》るゝまゝに下駄をはいて、今母の胎内を出た様に真裸で、天上天下唯我独尊と云う様な大踏歩《だいとうほ》して庭を歩いて帰る。帰って縁に上って、手拭で悉皆体を拭いて、尚暫くは縁に真裸で立って居る。全く一皮《
前へ 次へ
全684ページ中251ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング