キの一点を天の一角にうった雲が十分間に全天空《ぜんてんくう》を鼠色に包んだり、電を閃《ひらめ》かしたり、雹《ひょう》を撒《ま》いたり、雷を鳴らしたり、夕立になったり、虹《にじ》を見せたり。而《そう》して急に青空になったり、分秒を以てする天空の変化は、眼にもとまらぬ早わざである。夏の天に目ざましい変化があれば、夏の地にも鮮やかな変化がある。尺を得れば尺、寸を獲《う》れば寸と云う信玄流《しんげんりゅう》の月日を送る田園の人も、夏ばかりは謙信流《けんしんりゅう》の一気呵成《いっきかせい》を作物の上に味《あじ》わうことが出来る。生憎《あいにく》草も夏は育つが、さりとて草ならぬものも目ざましく繁《しげ》る。煙管《きせる》啣《くわ》えて、後手《うしろで》組んで、起きぬけに田の水を見る辰《たつ》爺《じい》さんの眼に、露だらけの早稲《わせ》が一夜に一寸も伸びて見える。昨日花を見た茄子《なす》が、明日はもうもげる。瓜の蔓《つる》は朝々伸びて、とめてもとめても心《しん》をとめ切れぬ。二三日打っちゃって置くと、甘藷《さつまいも》の蔓は八重がらみになる。如何に一切を天道様に預けて、時計に用がない百姓でも、時に
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