らりと並んで、カンテラやランプの油煙《ゆえん》を真黒に立てゝ、人声がや/\噪《さわ》いで居る。其中を縫《ぬ》うて、宮の横手に行くと、山茶花《さざんか》小さな金剛纂《やつで》なぞ植え込んだ一寸した小庭が出来て居て、ランプを入れた燈籠《とうろう》が立ち、杉皮葺《すぎかわぶき》の仮屋根の下に墨黒々と「彰忠《しょうちゅう》」の二大字を書いた板額《いたがく》が掲《かか》って居る。然る可き目的がなければ村芝居の興行は許されぬと云う其筋の御意だそうで、此度の芝居も村の諸君が智慧《ちえ》をしぼって、日露戦役記念の為とこじつけ、漸《ようや》く役場や警察の許可を得た。其れについて幸い木目《もくめ》見事《みごと》の欅板《けやきいた》があるので、戦役記念の題字を書いてくれと先日村の甲乙《たれかれ》が彼に持込んで来たが、書くが職業と云う条あまりの名筆故《めいひつゆえ》彼は辞退した。そこで何処《どこ》かの坊さんに頼んだそうだが、坊さんは佳《いい》墨《すみ》がなければ書けぬと云うたそうで、字を書かぬなら墨を貸してくれと村の人達が墨を借りに来た。幸い持合せの些《ちと》泥臭《どろくさ》いが見かけは立派な円筒形《えんとう
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