って居る内、夜の明くる様に西の空が明るくなり出した。霽際《あがりぎわ》の繊《ほそ》い雨が、白い絹糸を閃《ひら》めかす。一足《ひとあし》縁へ出て見ると、東南の空は今真闇である。最早夕立の先手が東京に攻め寄せた頃である。二百万の人の子の遽《あわ》てふためく状《さま》が見える様だ。
何時《いつ》の間にかばったり雨は止んで、金光《こんこう》厳《いかめ》しく日が現われた。見る/\地面を流るゝ水が止まった。風がさあっと西から吹いて来る。庭の翠松がばら/\と雫《しずく》を散らす。何処かでキリン/\と蜩《ひぐらし》が心地よく鳴き出した。
時計を見ると、二時三十分。夕立は唯三十分つゞいたのであった。
浴衣《ゆかた》を引かけ、低い薩摩下駄を突かけて畑に出た。さしもはしゃいで居た畑の土がしっとりと湿《うるお》うて、玉蜀黍《とうもろこし》の下葉やコスモスの下葉や、刎《は》ね上げた土まみれになって、身重げに低れて居る。何処《どこ》を見ても、うれしそうに緑《みどり》がそよいで居る。東の方では雷《らい》がまだ鳴って居る。
「虹収仍白雨《にじおさまってなおはくう》、雲動忽青山《くもうごいてたちまちせいざん》」
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