景《ぜんけい》にして、いつも近くは八王子在の高尾小仏、遠くて甲州東部の連峰が見ゆるあたりだけ、卵色の横幕を延いた様に妙に黄色になり、其上層は人を脅《おど》す様な真黯《まっくら》い色をして居る。西北の空が真暗になって、甲州の空の根方のみ妙《みょう》に黄朱《おうしゅ》を抹《なす》った様になる時は、屹度何か出て来る。已《すで》に明治四十一年の春の暮、成人《おとな》の握掌大《にぎりこぶしほど》の素晴しい雹が降った時も然《そう》だった。斯う思いながら縁から見て居ると、頭上《ずじょう》の日はカン/\照りながら、西の方から涼しいと云うより寧《むしろ》冷《つめ》たい気が吻々《ふつふつ》と吹っかけて来る。彼の家から、東は東京、南は横浜、夕立は滅多に其方からは来ぬ。夕立は矢張西若くは北の山から来る。山から都へ行く途中、彼が住む野の村を過《よ》ぎるのである。
西は本気に曇った。雷様も真面目に鳴り出した。最早多摩川の向うは降って居るのであろう。彼は大急ぎで下りて、庭に乾してあった仕事着やはだし足袋《たび》を取り入れた。帰って北の窓をあけると、面《つら》が冷やりとした。北の空は一面鼠色になって居る。日傭《ひよ
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