られ、十台の車は静かな村を犇《ひし》めかして勢よく新宿に向った。新宿から電車でお茶の水に下り、某と云う料理店に案内された。
媒妁は滅多に公会祝儀の席なぞに出た事のない本当の野人《やじん》である。酒がはじまった。手をついたり、お辞儀《じぎ》をしたり、小むつかしい献酬《けんしゅう》の礼が盛に行われる。酒を呑まぬ媒妁は、ぽかんとして皆の酒を飲むのを眺めて居る。料理が出たが、菜食主義の彼は肉食をせぬ。腹は無闇《むやみ》に減る。新郎の母者人が「ドウカお吸物《すいもの》を」との挨拶《あいさつ》が無い前に、勝手に吸物《すいもの》椀《わん》の蓋をとって、鱚《きす》のムスビは残して松蕈《まつだけ》とミツバばかり食った。
九時過ぎやっとお開きになった。媒妁夫婦は一同に礼して、寿《じゅ》の字の風呂敷に包んだ引き物の鰹節籠《かつぶしかご》を二つ折詰《おりづめ》を二つもらって、車で送られてお茶の水停車場に往った。媒妁の家は菜食で、ダシにも昆布《こんぶ》を使って居るので、二つの鰹節包は二人の車夫にやった。車夫は眼を円《まる》くして居た。
新宿に下りると、雨が盛《さかん》に降って居る。夜も最早《もう》十時、甲
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