してたま/\死《し》んだ吾家の犬、猫、鶏、の幾頭《いくとう》幾羽《いくわ》を葬った一町にも足らぬ土が、今は儂にとりて着物《きもの》の如く、寧《むしろ》皮膚《ひふ》の如く、居れば安く、離るれば苦しく、之を失う場合を想像するに堪《た》えぬ程愛着を生じて来た。己《おのれ》を以て人を推せば、先祖代々土の人たる農其人の土に対する感情も、其|一端《いったん》を覗《うかが》うことが出来る。斯《この》執着《しゅうちゃく》の意味を多少とも解し得る鍵《かぎ》を得たのは、田舎住居の御蔭《おかげ》である。
然しながら己《わ》が造った型《かた》に囚《とら》われ易いのが人の弱点である。執着は常に力であるが、執着は終に死である。宇宙は生きて居る。人間は生きて居る。蛇が衣《から》を脱ぐ如く、人は昨日《きのう》の己が死骸を後ざまに蹴て進まねばならぬ。個人も、国民も、永久に生くべく日々死して新に生《うま》れねばならぬ。儂は少くも永住の形式を取って村の生活をはじめたが、果して此処《ここ》に永住し得るや否、疑問である。新宿八王子間の電車は、儂の居村《きょそん》から調布《ちょうふ》まで已に土工を終えて鉄線を敷きはじめた。トン
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