し》めた古長持の上に妻の鏡台《きょうだい》を置いた。鏡台の背には、破簾《やれみす》を下げて煤《すす》だらけの勝手を隔てた。二十分の後此|楽屋《がくや》から現われ出た花嫁君《はなよめぎみ》を見ると、秋草の裾模様《すそもよう》をつけた淡紅色《ときいろ》絽《ろ》の晴着で、今咲いた芙蓉《ふよう》の花の様だ。花婿も黒絽紋付、仙台平の袴、凜《りゅう》として座って居る。
 媒妁は一咳《いちがい》してやおら立上った。
「勝田慶三郎」
「松居千代」
 卒業免状でも渡す時の様に、声《こえ》厳《おごそか》に新郎新婦を呼び出して、テーブルの前に立たせた。而《そう》して媒妁は自身愛読する創世記《そうせいき》イサク[#「イサク」に傍線]、リベカ[#「リベカ」に傍線]結婚の条を朗々《ろうろう》と読み上げた。
「祈祷《きとう》を致します」
 斯く云って、媒妁がやゝ久しく精神を統一すべく黙って居ると、
「祈祷を致すのでございますか」
と新郎がやゝ驚いた様に小声できく。媒妁は頓着《とんじゃく》なく祝祷《しゅくとう》をはじめた。
 祈祷が終る。妻が介抱《かいほう》して、新郎新婦を握手させる。一旦新婦の手からぬいて置いた指環
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