知合で、新婦は初めて名を聞いた。媒妁なンか経験もなし、断ったが、是非との頼《たの》み、諾《よし》と面白半分引受けてしもうた。
明治四十年の九月|某日《それのひ》、媒妁夫妻は小婢《こおんな》と三人がかりで草屋の六畳二室を清《きよ》め、赤、白、鼠、婢の有《もの》まで借りて、あらん限りの毛布を敷きつめた。家のまわりも一《ひと》わたり掃《は》いた。隔ての唐紙《からかみ》を取払い、テーブルを一脚《いっきゃく》東向きに据《す》え、露ながら折って来た野の草花を花瓶《かへい》一ぱいに插《さ》した。女郎花《おみなえし》、地楡《われもこう》、水引、螢草、うつぼ草、黄碧紫紅《こうへきしこう》入り乱れて、あばら家も為に風情《ふぜい》を添えた。媒妁夫妻は心嬉しく、主人は綿絽《めんろ》の紋付羽織に木綿茶縞の袴、妻は紋服《もんぷく》は御所持なしで透綾《すきや》の縞の単衣にあらためて、徐《しずか》に新郎新婦の到着を待った。
正午過ぎ、村を騒がして八台の車が来た。新郎新婦及縁者の人々である。新婦は初めて見た。眼のきれの長い佳人《かじん》である。更衣室も無いので、仕切りの障子をしめ、二畳の板の間を半分《はんぶん》占《
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