って来る。ある寒い朝、不図《ふと》見ると富士の北の一角《いっかく》に白いものが見える。雨でも降ったあとの冷たい朝には、水霜がある。
十月は雨の月だ。雨がつゞいたあとでは、雑木林に茸《きのこ》が立つ。野ら仕事をせぬ腰の曲った爺さんや、赤児を負ったお春っ子が、笊《ざる》をかゝえて採りに来る。楢茸《ならたけ》、湿地茸《しめじだけ》、稀に紅茸、初茸は滅多になく、多いのが油坊主《あぶらぼうず》と云う茸だ。一雨一雨に気は冷えて行く。田も林も日に/\色づいて行く。甘藷《さつま》が掘られて、続々都へ運ばれる。田舎は金が乏しい。村会議員の石山さんも、一銭|違《ちが》うと謂うて甲州街道の馬車にも烏山から乗らずに山谷《さんや》から乗る。だから、村の者が甘藷を出すにも、一貫目につき五厘も値《ね》がよければ、二里の幡《はた》ヶ谷《や》に下ろすより四里の神田へ持って行く。
茶の花が咲く。雑木林の楢に絡《から》む自然薯《じねんじょ》の蔓《つる》の葉が黄になり、藪《やぶ》からさし出る白膠木《ぬるで》が眼ざむる様な赤《あか》になって、お納戸色《なんどいろ》の小さなコップを幾箇も列《つら》ねて竜胆《りんどう》が咲く。
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