樫《かし》の木の下は、ドングリが箒《ほうき》で掃く程だ。最早|豌豆《えんどう》や蚕豆《そらまめ》も蒔《ま》かねばならぬ。蕎麦も霜前に苅《か》らねばならぬ。また其れよりも農家の一大事、月の下旬から来月初旬にかけて、最早麦蒔きがはじまる。後押しの二人もついて、山の如く堆肥《たいひ》を積んだ車が頻《しきり》に通る。先ず小麦を蒔いて、後に大麦を蒔くのである。奇麗に平《なら》した畑は一条《ひとすじ》一条丁寧に尺竹《しゃくだけ》をあて、縄ずりして、真直ぐに西から東へ畝《うね》を立て、堆肥を置いて土をかけ、七蔵が種を振《ふ》れば、赤児を負った若いかみさんが竹杖《たけづえ》ついて、片足かわりに南から北へと足で土をかけて、奇麗に踏んづけて行く。燻炭《くんたん》肥料の、条播《すじまき》のと、農会の勧誘《かんゆう》で、一二年やって見ても、矢張仕来りの勝手がよい方でやって行くのが多い。

       十一

 霜らしい霜は、例年明治天皇の天長節《てんちょうせつ》、十一月三日頃に来る。手を浄《きよ》めに前夜雨戸をあくれば、鍼先《はりさき》を吹っかくる様な水気《すいき》が面を撲《う》って、遽《あわ》てゝもぐり込
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