「今日は」と抑《そもそも》天気の挨拶からゆる/\とはじめる田舎《いなか》気質《かたぎ》で、仁左衛門さんと隣字の幹部の忠五郎さんとの間には、芝居《しばい》の科白《せりふ》の受取渡しよろしくと云う挨拶が鄭重《ていちょう》に交換される。輪番《りんばん》に主になったり、客になったり、呼びつ喚ばれつ、祭は村の親睦会だ。三多摩は昔から人の気の荒い処で、政党騒ぎではよく血の雨を降らし、気の立った日露戦争時代は、農家の子弟が面|籠手《こて》かついで調布まで一里半撃剣の朝稽古に通ったり柔道を習ったりしたものだが、六年前に一度粕谷八幡山対烏山の間に大喧嘩《おおげんか》があって、仕込杖《しこみづえ》が光ったり怪我人が出来たり長い間|揉《も》めくった以来、此と云う喧嘩の沙汰も聞かぬ。泰平有象《たいへいしょうあり》村々酒《そんそんのさけ》。祭が繁昌すれば、田舎は長閑《のどか》である。

       十

 十月だ。稲の秋。地は再び黄金の穂波が明るく照り渡る。早稲《わせ》から米になって行く。性急《せいきゅう》に百舌鳥《もず》が鳴く。日が短くなる。赤蜻蛉《あかとんぼ》が夕日の空に数限りもなく乱れる。柿が好い色に照
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