》の声で涼しいが、昼間は油蝉《あぶらぜみ》の音の煎《い》りつく様に暑い。涼しい草屋《くさや》でも、九十度に上る日がある。家の内では大抵誰も裸体《はだか》である。畑ではズボラの武太さんは褌《ふんどし》一つで陸稲《おかぼ》のサクを切って居る。十五六日は、東京のお盆《ぼん》で、此処《ここ》其処に藪入姿《やぶいりすがた》の小さな白足袋があるく。甲州街道の馬車は、此等の小僧さんで満員である。

       八

 暴風にも静な中心がある。忙《せわ》しい農家の夏の戦闘《いくさ》にも休戦の期《き》がある。
 七月|末《すえ》か、八月初か、麦も仕舞《しま》い、草も一先ず取りしもうた程《ほど》よい頃を見はからって、月番から総郷上《そうごうあが》り正月のふれを出す。総郷業を休み足を洗うて上るの意である。其《その》期は三日。中日は村|総出《そうで》の草苅り路普請《みちぶしん》の日とする。右左から恣《ほしいまま》に公道を侵《おか》した雑草や雑木の枝を、一同|磨《と》ぎ耗《へ》らした鎌で遠慮|会釈《えしゃく》もなく切払う。人よく道を弘《ひろ》むを、文義《もんぎ》通りやるのである。慾張《よくばり》と名のある不人
前へ 次へ
全684ページ中180ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング