望な人の畑や林は、此時こそ思い切り切りまくる。昔は兎に角、此の頃では世の中せち辛《から》くなって、物日にも稼《かせ》ぐことが流行する。総郷上り正月にも、畑に田にぽつ/\働く影を見うける。
 八月は小学校も休業《やすみ》だ。八月七日は村の七夕《たなばた》、五色の短冊《たんざく》さげた笹《ささ》を立つる家もある。やがて于蘭盆会《うらぼんえ》。苧殻《おがら》のかわりに麦からで手軽に迎火《むかえび》を焚《た》いて、それでも盆だけに墓地も家内《やうち》も可なり賑合《にぎわ》い、緋の袈裟《けさ》をかけた坊さんや、仕着せの浴衣単衣で藪入《やぶいり》に行く奉公男女の影や、断続《だんぞく》して来る物貰いや、盆らしい気もちを見せて通る。然し斯《この》貧《まず》しい小さな野の村では、昔から盆踊《ぼんおど》りと云うものを知らぬ。一年中で一番好い水々《みずみず》しい大きな月が上《あが》っても、其れは断片的《きれぎれ》に若者の歌を嗾《そそ》るばかりである。まる/\とした月を象《かた》どる環《わ》を作って、大勢の若い男女が、白い地を践《ふ》み、黒い影を落して、歌いつ踊《おど》りつ夜を深して、傾《かたぶ》く月に一人《
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