、黒《くろ》鉢巻《はちまき》の経木《きょうぎ》真田《さなだ》の帽子を阿弥陀《あみだ》にかぶって、赤銅色《しゃくどういろ》の逞《たくま》しい腕に撚《より》をかけ、菅笠《すげがさ》若くは手拭で姉様冠《あねさまかぶ》りの若い女は赤襷《あかだすき》手甲《てっこう》がけ、腕で額の汗を拭き/\、くるり棒の調子を合わして、ドウ、ドウ、バッタ、バタ、時々《ときどき》群《むれ》の一人が「ヨウ」と勇《いさ》みを入れて、大地も挫《ひし》げと打下ろす。「お前《まえ》さんとならばヨウ、何処《どこ》までもウ、親を離れて彼世《あのよ》までもゥ」若《わか》い女の好い声《こえ》が歌う。「コラコラ」皆が囃《はや》す。禾場《うちば》の日はかん/\照って居る。くるり棒がぴかりと光る。若い男女の顔は、熟した桃の様に紅光《あかびか》って居る。空には白光りする岩雲《いわぐも》が堆《うずたか》く湧《わ》いて居る。
七月中旬、梅雨《つゆ》があけると、真剣に暑くなる。明るい麦が取り去られて、田も畑も緑《みどり》に返える。然し其は春暮《しゅんぼ》の嫩《やわ》らかな緑では無い、日中は緑の焔《ほのお》を吐《は》く緑である。朝夕は蜩《ひぐらし
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