くなるのも無理はねえや」と、小男《こおとこ》ながら小気味よく稼ぐ辰《たつ》爺さんがこぼす。「違《ちげえ》ねえ、俺ァ辰さんよか年の十も下だンべが、何糞《なにくそ》ッ若け者《もん》に負けるもンかってやり出しても、第一|息《いき》がつゞかんからナ」と岩畳《がんじょう》づくりの与右衛門さんが相槌《あいづち》をうつ。然し耗っても錆《さ》びても、心棒は心棒だ。心棒が廻わらぬと家が廻わらぬ。折角《せっかく》苅《か》り入れた麦も早く扱《こ》いて撲《ぶ》って俵にしなければ蝶々《ちょうちょう》になる。今日も雨かと思うたりゃ、さあお天道様《てんとさま》が出なさったぞ、皆《みんな》来《こ》うと呼ばって、胡麻塩頭《ごましおあたま》に向鉢巻、手垢に光るくるり棒《ぼう》押取《おっと》って禾場《うちば》に出る。それっと子供が飛び出す。兄が出る。弟が出る。嫁《よめ》が出る。娘が出る。腰痛《ようつう》でなければ婆さんも出る。奇麗に掃いた禾場《うちば》に一面の穂麦を敷《し》いて、男は男、女は女と相並んでの差向い、片足《かたあし》踏出《ふみだ》し、気合を入れて、一上一下とかわる/″\打下ろす。男は股引《ももひき》に腹かけ一つ
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