斯《この》季節《きせつ》に農家を訪えば大抵《たいてい》は門をしめてある。猫一疋居ぬ家もある。何を問うても、くる/\とした眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》って、「知ンねェや」と答うる五六歳《いつつむつ》の女の子が赤ン坊《ぼう》と唯二人留守して居る家《うち》もある。斯様《こん》な時によく子供の大怪我《おおけが》がある。家の内は麦の芒《のげ》だらけ、墓地は草だらけで、お寺や教会では坊さん教師が大欠伸《おおあくび》して居る。後生なんか願うて居る暇が無いのだ。
七
忙《せわ》しい中に、月は遠慮《えんりょ》なく七月に入る。六月は忙しかったが、七月も忙しい。
忙しい、忙しい。何度云うても忙しい。日は永くても、仕事は終《お》えない。夜は短《みじか》くてもおち/\眠ることが出来ぬ。何処《どこ》の娘も赤い眼をして居る。何処のかみさんも、半病人《はんびょうにん》の蒼《あお》い顔をして居る。短気の石山さんが、鈍《どん》な久さんを慳貪《けんどん》に叱りつける。「車の心棒《しんぼう》は鉄《かね》だが、鉄だァて使《つか》や耗《へ》るからナ、俺《おら》ァ段々|稼《かせ》げな
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