が雹に降られて天に向って拳《こぶし》をふり上げ、「何ちゅう事《こつ》をしくさるか」と怒鳴《どな》るところがあるが、無理はない。此辺では「雹乱《ひょうらん》」と云って、雹は戦争《いくさ》よりも恐れられる。そこで雹祭《ひょうまつり》をする。榛名様《はるなさん》に願をかける。然し榛名様も、鎮守の八幡も、如何《どう》ともしかね玉う場合がある。出水の患《うれい》が無い此村も、雹の賜物《たまもの》は折々受けねばならぬ。村の天に納める租税《そぜい》である。
六
六月になった。麦秋《むぎあき》である。「富士一つ埋《うづ》み残して青葉《あをば》かな」其青葉の青闇《あおぐら》い間々を、熟《う》れた麦が一面日の出《で》の様に明るくする。陽暦六月は「農攻《のうこう》五月《ごげつ》急於弦《げんよりもきゅうなり》」と云う農家の五月だ。農家の戦争で最劇戦《さいげきせん》は六月である。六月初旬は、小学校も臨時|農繁休《のうはんきゅう》をする。猫の手でも使いたい時だ。子供一人、ドウして中々馬鹿にはならぬ。初旬には最早《もう》蚕《かいこ》が上るのだ。中旬《ちゅうじゅん》には大麦、下旬には小麦を苅《か》
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