だいじ》の大切のお蚕様《こさま》が大きくなって居るのだ。然し月の中に一度|雹祭《ひょうまつり》だけは屹度《きっと》鎮守の宮でする。甲武の山近い三多摩の地は、甲府の盆地から発生する低気圧が東京湾へぬける通路に当って居るので、雹や雷雨は名物である。秋の風もだが、春暮《しゅんぼ》初夏《しょか》の雹が殊に恐ろしいものになって居る。雹の通る路筋《みちすじ》はほゞきまって居る。大抵上流地から多摩川《たまがわ》に沿うて下《くだ》り、此辺の村を掠《かす》めて、東南に過ぎて行く。既に五年前も成人《おとな》の拳大《こぶしほど》の恐ろしい雹を降らした。一昨年も唯十分か十五分の間に地が白くなる程降って、場所によっては大麦小麦は種《たね》も残さず、桑、茶、其外|青物《あおもの》一切全滅した処もある。可なりの生活《くらし》をして居ながら、銭《ぜに》になると云えば、井浚《いどざら》えでも屋根|葺《ふき》の手伝でも何でもする隣字《となりあざ》の九右衛門|爺《じい》さんは、此雹に畑を見舞《みま》われ、失望し切って蒲団《ふとん》をかぶって寝てしもうた。ゾラ[#「ゾラ」に傍線]の小説「土」に、ある慾深《よくふか》の若い百姓
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