字点、1−2−22]した若者が、此村からも彼村からも府中に集まる。川端の嘉《かあ》ちゃんは甲種合格だってね、俺《おら》が家《とこ》の忠はまだ抽籤《くじ》は済まねえが、海軍に採《と》られべって事《こん》だ、俺も稼《かせ》げる男の子はなし、忠をとられりゃ作代《さくだい》でも雇うべい、国家の為だ、仕方が無えな、と与右衛門さんが舌鼓《したつづみ》うつ。下田の金さん宅《とこ》では、去年は兄貴《あにき》が抽籤で免《のが》れたが、今年は稲公が彼《あの》体格《たいかく》で、砲兵にとられることになった。当人は勇《いさ》んで居るが、阿母《おふくろ》が今から萎《しお》れて居る。
頓着《とんちゃく》なく日は立って行く。わかれ霜を気遣うたは昨日の様でも、最早|春蝉《はるぜみ》が鳴き出して青葉の蔭《かげ》がそゞろ恋《こい》しい日もある。詩人が歌う緑蔭《りょくいん》幽草《ゆうそう》白花《はくか》を点ずるの時節となって、畑《はたけ》の境には雪の様に卯《う》の花が咲きこぼれる。林端《りんたん》には白いエゴの花がこぼれる。田川の畔《くろ》には、花茨《はないばら》が芳《かんば》しく咲き乱れる。然し見かえる者はない。大切《
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