を紅白美々しく飾《かざ》り立てた初荷の荷馬車が新宿さして軋《きし》らしたり、黒の帽子に紫の袈裟《けさ》、白足袋に高足駄の坊さんが、年玉を入れた萌黄《もえぎ》の大風呂敷包を頸《くび》からつるして両手で抱《かか》えた草鞋《わらじ》ばきの寺男を連れて檀家《だんか》の廻礼をしたりする外は、村は餅搗《もちつ》くでもなく、門松一本立つるでなく、至極《しごく》平気な一月である。唯|農閑《のうかん》なので、青年の夜学がはじまる。井浚《いどざら》え、木小屋の作事《さくじ》、屋根の葺《ふ》き更え、農具の修繕《しゅうぜん》なども、此|隙《すき》にする。日なたぼこりで孫いじりにも飽いた爺の仕事は、啣《くわ》え煙管《ぎせる》の背手《うしろで》で、ヒョイ/\と野らの麦踏《むぎふみ》。若い者の仕事は東京行の下肥《しもごえ》取《と》りだ。寒中の下肥には、蛆《うじ》が涌《わ》かぬ。堆肥《たいひ》製造には持て来いの季節、所謂|寒練《かんねり》である。夜永の夜延《よな》べには、親子兄弟大きな炉側《ろばた》でコト/\藁《わら》を擣《う》っては、俺ァ幾括《いくぼ》だ卿《おめえ》は何足《なんぞく》かと競争しての縄綯《なわな》い草
前へ 次へ
全684ページ中157ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング