ど》、其れ等に雨雪を凌《しの》ぐのは、乞食仲間でも威張《いば》った手合で、其様な栄耀《えいよう》が出来ぬやからは、村の堂宮《どうみや》、畑の中の肥料《こやし》小屋、止むなければ北をよけた崖《がけ》の下、雑木林の落葉の中に、焚火《たきび》を力にうと/\一夜を明《あか》すのだ。そこでよく火事が起る。彼が隣の墓地《ぼち》にはもと一寸した閻魔堂《えんまどう》があったが、彼が引越して来る少し前に乞食の焚火《たきび》から焼けて了うて、木の閻魔様は灰《はい》になり、石の奪衣婆《だつえば》ばかり焼け出されて、露天《ろてん》に片膝立てゝ恐《こわ》い顔をして居る。鎮守《ちんじゅ》八幡でも、乞食の火が険呑《けんのん》と云うので、つい去年拝殿に厳重な戸締りを設けて了うた。安さんの為に寝所《しんじょ》が一つ無くなったのである。それかあらぬか、近頃一向安さんの影を見かけなくなった。
「安さんは如何したろ?」
 彼等はしば/\斯く噂《うわさ》をした。
 昨日|婢《おんな》が突然安さんの死を報じた。近所の女児《むすめ》が斯く婢に云うたそうだ。
「安さんなァ、安さんな内のお安さんが死んだ些前《ちょっとまえ》に、は、死ん
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