ある。主婦が仙さんの素生《すじょう》を尋ねかけたら、「乃公《おれ》に喧嘩を売るのか」と仙さんは血相を変えた。ある時やるものが無くて梅干《うめぼし》をやったら、斯様なものと顔をしかめる。居合わした主人は、思わず勃然《むっ》として、貰う者の分際《ぶんざい》で好悪《よしあし》を云う者があるか、と叱《しか》りつけたら、ブツ/\云いながら受取ったが、門を出て五六歩行くと雑木林《ぞうきばやし》に投げ棄てゝ往った。追かけて撲《ぶ》ちのめそうか、と思ったが、やっと堪《こら》えた。彼は此後仙さんを憎《にく》んだ。其後一二度来たきり、此二三年は頓斗《とんと》姿《すがた》を見せぬ。
我強《がづよ》い仙さんに引易《ひきか》え、気易《きやす》の安さんは村でもうけがよい。安さんは五十位、色の浅黒《あさぐろ》い、眼のしょぼ/\した、何処《どこ》やらのっぺりした男である。安さんは馬鹿を作って居る。夏着《なつぎ》冬着ありたけの襤褸《ぼろ》の十二一重《じゅうにひとえ》をだらりと纏《まと》うて、破れしゃっぽのこともあり、黒い髪を長く額に垂らして居ることもあり、或は垢染《あかじ》みた手拭を頬冠《ほおかむ》りのこともある。下
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