くび》をして往って了うた。
 一般的乞食の外に、特別名指しの金乞いも時々来る。やりたくても無い時があり、あってもやりたくない時があり、二拍子《ふたひょうし》揃《そろ》って都合よくやる時もあり、ふかし甘藷《いも》二三本新聞紙に包《つつ》んで御免を蒙る場合もある。然し斯様《こん》な特別のは別にして、彼が村居《そんきょ》六年の間に懇意《こんい》になった乞食が二人ある。仙《せん》さんと安《やす》さん。
 仙さんは多少《たしょう》富裕《ゆたか》な家の息子の果であろう。乞食になっても権高《けんだか》で、中々吾儘である。五分苅頭《ごぶがりあたま》の面桶顔《めんつうがお》、柴栗を押つけた様な鼻と鼻にかゝる声が、昔の耽溺《たんでき》を語って居る。仙さんは自愛家である。飲料《いんりょう》には屹度《きっと》湯をくれと云う。曾て昆布《こんぶ》の出しがらをやったら、次ぎに来た時、あんな物をくれるから、醤油《しょうゆ》を損した上に下痢《げり》までした、と嗔《いか》った。小婢《こおんな》一人留守して居る処に来ては、茶をくれ、飯をくれ、果てはお前の着て居る物を脱いでくれ、と強請《ねだ》って、婢は一ちゞみになったことが
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