《さかな》よりも揚豆腐が好きで、主人を見真似たか梨や甜瓜《まくわ》の喰い残りをがり/\噛《かじ》ったり、焼いた玉蜀黍《とうもろこし》を片手で押えてわんぐり噛《か》みつきあの鋭い牙で粒を食《く》いかいてはぼり/\噛ったり、まさに田園《でんえん》の猫である。来客があって、珍《めず》らしく東京から魚を買ったら、トラ先生|早速《さっそく》口中に骨を立て、両眼に涙、口もとからは涎《よだれ》をたらし、人|騒《さわ》がせをしてよう/\命だけは取りとめた。犬猫の外に鶏が十羽。蜜蜂は二度|飼《か》って二度逃げられ、今は空箱だけ残って居る。天井《てんじょう》の鼠、物置の青大将《あおだいしょう》、其他無断同居のものも多いが、此等《これら》は眷族《けんぞく》の外である。(著者追記。犬のデカは大正二年の二月自動車に轢《ひ》かれて死に、猫のトラは正月行衛不明になり、ピンは五月肥溜に落ちて死んだ。)
猫の話で思い出したが、儂《わし》は明治四十二年の春、塩釜《しおがま》の宿で牡蠣《かき》を食った時から菜食《さいしょく》を廃《よ》した。明治三十八年十二月から菜食をはじめて、明治三十九、四十、四十一、と満三年の精進《し
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