たいしゃ》でも、堪え難いあなたの苦痛と断腸《だんちょう》の悲哀《かなしみ》とは、其幾分を感ぜずに居られません。彼池の滸《ほと》りの一刹那《いっせつな》を思うては、戦慄《せんりつ》せずには居られません。
三
然し夫人、世に先生を非難する者の多かった様に、あなたを非難する者も少くありませんでした。白状します、私も其一人でした。トルストイ[#「トルストイ」に傍線]と云う様な偉大な名は、世界の目標です。先生や先生の一家一門の所作《しょさ》は、万人の具《つぶさ》に瞻《み》る所、批評の的《まと》であります。そこで先生の哀《かな》しい最期前後の出来事は、如何様《どのよう》な微細な事までも、世界中の新聞雑誌に掲載されて、色々の評判を惹起《ひきおこ》しました。私は漏らさず其記事を見ました。無論|誤報《ごほう》曲説《きょくせつ》も多かったでしょう。針小棒大《しんしょうぼうだい》の記事も沢山あったに違いありません。然し打明けて云えば、其記事については、私は非常に心を痛《いた》むる事が多かった。打明けて云えば、夫人、私はあなたに対して少からぬ不平があったのです。勿論白が弥《いや》白くなれば
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