説に関し、自身の懊悩《おうのう》を述べ、自分の様な鈍根の者は、一切を抛擲《ほうてき》して先ず神を見る可く全力を傾注する勇気が無い、と嘆息して帰った。
其後久しく消息を聞かなかったが、今夜一年ぶりに突然君は来訪したのであった。
君の所要は、先月|茅《ち》ヶ崎《さき》で物故した一文士に関する彼の感想を聞くにあった。彼は故人について取りとめもない話をした。故人と彼とは同じ新聞社の編輯局《へんしゅうきょく》に可なり久しく居たのであったが、故人は才華発越、筆をとれば斬新警抜《ざんしんけいばつ》、話をすれば談論火花を散らすに引易え、彼はわれながらもどかしくてたまらぬ程の迂愚《うぐ》、編輯局の片隅に猫の如く小さくなって居たので、故人と心腹を披《ひら》いて語る機会もなく、故人の方には多少の侮蔑《ぶべつ》あり、彼の方には多少の嫉妬《しっと》羨望《せんぼう》あり、身は近く心ははなれ/″\に住んだ。其後故人も彼も前後に新聞社を出て、おの/\自家《じか》の路を歩み、顔を見ること稀に、消息を聞かぬ日多く打過ぎた。然し彼は一度故人と真剣の話をしたいと久しく思うて居た。日露戦争の終った年の暮、彼は一の心的革命を
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