つい知らぬ間《ま》に蹂《ふ》みにじる。
碧色の草花として、つゆ草は粋《すい》である。
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おぼろ夜
早夕飯のあと、晩涼《ばんりょう》に草とりして居た彼は、日は暮れる、ブヨは出る、手足を洗うて上ろうかとぬれ縁に腰かけた。其時門口から白いものがすうと入って来た。彼はじいと近づくものを見て居たが、
「あゝM君《くん》ですか」
と声《こえ》をかけた。
其は浴衣の着流《きなが》しで駒下駄を穿《は》いたM君であった。M君は早稲田《わせだ》中学の教師で、かたわら雑誌に筆を執って居る人である。彼が千歳村に引越したあくる月、M君は雑誌に書く料《りょう》に彼の新生活を見に来た。丁度《ちょうど》樫苗《かしなえ》を植えて居たので、ろく/\火の気の無い室に二時間も君を待たせた。君は慍《いか》る容子もなく徐《しずか》に待って居た。温厚な人である。其れから其年の夏、月の好《い》い一夜《いちや》、浴衣の上に夏羽織など引かけて、ぶらりと尋ねて来た。M君は綱島《つなしま》梁川《りょうせん》君《くん》の言として、先ず神を見なければ一切の事悉く無意義だ、神を見ずして筆を執るなぞ無用である、との
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