には更《さら》に千鳥草《ちどりそう》の花がある。千鳥草、又の名は飛燕草。葉は人参の葉の其れに似て、花は千鳥か燕か鳥の飛ぶ様な状《さま》をして居る。園養《えんよう》のものには、白、桃色、また桃色に紫の縞《しま》のもあるが、野生の其《そ》れは濃碧色《のうへきしょく》に限られて居る様だ。濃碧が褪《うつろ》えば、菫色《すみれいろ》になり、紫になる。千鳥草と云えば、直ぐチタ[#「チタ」に二重傍線]の高原が眼に浮ぶ。其れは明治三十九年露西亜の帰途《かえり》だった。七月下旬、莫斯科《もすくわ》を立って、イルクツク[#「イルクツク」に二重傍線]で東清鉄道の客車に乗換え、莫斯科を立って十日目《とおかめ》にチタ[#「チタ」に二重傍線]を過ぎた。故国を去って唯四ヶ月、然しウラル[#「ウラル」に二重傍線]を東に越すと急に汽車がまどろかしくなる。イルクツク[#「イルクツク」に二重傍線]で乗換《のりか》えた汽車の中に支那人のボオイが居たのが嬉しかった。イルクツク[#「イルクツク」に二重傍線]から一駅毎に支那人を多く見た。チタ[#「チタ」に二重傍線]では殊《こと》に支那人が多く、満洲《まんしゅう》近い気もち十分《じ
前へ 次へ
全684ページ中127ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング