は期《ご》して居たが、彼女は早くも死んだの乎。
 聞《き》きたいのは、沈黙の其一年の消息である。知りたいのは、其《その》死《し》の状《さま》である。

           *

 あくる年の正月、主人夫妻は彼女の友達の一人なる甲州の某氏から彼女に関する消息の一端を知ることを得た。
 彼等夫妻は千曲川《ちくまがわ》の滸《ほとり》に家をもち、養鶏《ようけい》などやって居た。而して去年《きょねん》の秋の暮、胃病《いびょう》とやらで服薬して居たが、ある日医師が誤った投薬の為に、彼女は非常の苦痛をして死んだ。彼女の事を知る信者仲間には、天罰だと云う者もある、と某氏は附加《つけくわ》えた。

           *

 某氏はまた斯様《こん》な話をした。亡くなった彼女は、思い切った女であった。人の為に金でも出す時は己が着類《きるい》を質入《しちい》れしたり売り払ったりしても出す女であった。彼女の前夫《ぜんふ》は親類仲で、慶応義塾出の男であった。最初は貨殖を努めたが、耶蘇《やそ》を信じて外川先生の門人となるに及んで、聖書の教を文句通《もんくどお》り実行して、決して貸した金の催促をしなかった。其れ
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