をつけ込んで、近郷近在の破落戸《ならずもの》等が借金に押しかけ、数千円は斯くして還らぬ金となった。彼の家には精神病の血があった。彼も到頭遺伝病に犯された。其為彼の妻は彼と別居した。彼は其妻を恋いて、妻の実家の向う隣の耶蘇教信者の家《うち》に時々来ては、妻を呼び出してもろうて逢うた。彼の臨終の場にも、妻は居なかった。此時彼女の魂はとく信州にあったのである。彼女の前夫が死んで、彼女が信州に奔る時、彼女の懐には少からぬ金があった。実家の母が瞋《いか》ったので、彼女は甲府まで帰って来て、其金を還した。然し其前彼女は実家に居る時から追々《おいおい》に金を信州へ送り、千曲川の辺の家《うち》も其れで建てたと云うことであった。

           *

 彼夜彼女が持《も》て来てくれたほおずきは、あまり見事《みごと》なので、子供にもやらず、小箪笥《こだんす》の抽斗《ひきだし》に大切にしまって置いたら、鼠が何時の間にか其《その》小箪笥を背《うしろ》から噛破って喰ったと見え、年《とし》の暮《くれ》に抽斗をあけて見たら、中実《なかみ》無しのカラばかりであった。
 年々《ねんねん》酸漿《ほおずき》が紅くな
前へ 次へ
全684ページ中123ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング