となった。学校でも迫害を受けた。ある時、高等小学の修身科で彼は熱心に忍耐を説いて居たら、生徒の一人がつか/\立って来て、教師用の指杖《さしづえ》を取ると、突然《いきなり》劇《はげ》しく先生たる彼の背《せなか》を殴《なぐ》った。彼は徐《しずか》に顧みて何を為《す》ると問うた。其《その》生徒は杖を捨てゝ涙を流し、御免下《ごめんくだ》さい、先生があまり熱心に忍耐を御説きなさるから、先生は実際どれ程忍耐が御出来になるか試したのです、と跪《ひざまず》いて詫《わ》びた。彼は其生徒を賞《ほ》めて、辞退するのを無理に筆を三本|褒美《ほうび》にやった。
斯様な話をして帰ると、朝飯の仕度が出来て居た。落花生が炙《い》れて居る。「落花生は大好きですから、私が炙りましょう」と云うて女が炙ったのそうな。主婦は朝飯の用意をしながら、細々と女の身上話を聞いた。
女は甲州の釜無川《かまなしがわ》の西に当る、ある村の豪家の女《むすめ》であった。家では銀行などもやって居た。親類内《しんるいうち》に嫁に往ったが、弟が年若《としわか》なので、父は彼女夫妻を呼んで家《うち》の後見をさした。結婚はあまり彼女の心に染まぬもので
前へ
次へ
全684ページ中119ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング