お客様の為に、主婦は懐炉《かいろ》を入れてやった。大分《だいぶ》落《おち》ついたと云う。晩《おそ》くなって風呂が沸《わ》いた。まあお客様からと請《しょう》じたら、「私も一緒に御免蒙りましょう」と婦人が云って、夫婦一緒にさっさと入って了った。寝《ね》ると云っても六畳二室の家、唐紙一重に主人組《しゅじんぐみ》は此方《こち》、客は彼方《あち》と頭《あたま》突《つ》き合わせである。無い蒲団を都合《つごう》して二つ敷いてやったら、御免を蒙ってお先に寝る時、二人は床を一つにして寝てしまった。

       三

 明くる日、男は、「私共は二食で、朝飯《あさめし》を十時にやります。あなた方はお構《かま》いなく」と何方《どち》が主やら客やら分《わ》からぬ事を云う。其れでは十時に朝飯として、其れ迄ちと散歩でもして来ようと云って、主人は男を連れて出た。
 畠仕事《はたけしごと》をして居る百姓の働き振を見ては、まるで遊んでる様ですな、と云う。彼《かれ》は生活の闘烈しい雪の山国《やまぐに》に生れ、彼自身も烈しい戦の人であった。彼は小学教員であった。耶蘇を信ずる為に、父から勘当《かんどう》同様《どうよう》の身
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