白が甲州に養《やしな》われて丁度一年目の夏、旧主人《きゅうしゅじん》夫妻《ふさい》は赤沢君を訪ねた。其《その》家《うち》に着いて挨拶して居ると庭に白の影が見えた。喫驚《びっくり》する程大きくなり、豚の様にまる/\と太って居る。「白」と声をかくるより早く、土足《どそく》で座敷に飛び上り、膝行《しっこう》匍匐《ほふく》して、忽ち例の放尿をやって、旧主人に恥をかゝした。其日は始終《しじゅう》跟《つ》いてあるき、翌朝山の上の小舎《こや》にまだ寝て居ると、白は戸の開《あ》くや否飛び込んで来て、蚊帳《かや》越《ご》しにずうと頭をさし寄せた。帰《かえ》りには、予め白を繋《つな》いであった。別《わかれ》に菓子なぞやっても、喰おうともしなかった。而《しか》して旧主人夫妻が帰った後、彼等が馬車に乗った桃林橋《とうりんきょう》の辺まで、白《しろ》は彼等の足跡を嗅《か》いで廻《まわ》って、大騒ぎしたと云うことであった。
 翌年の春、夫妻は二たび赤沢君《あかざわくん》を訪うた。白は喜のあまり浮かれて隣家《りんか》の鶏を追廻し、到頭一羽を絶息させ、而《しか》して旧主人《きゅうしゅじん》にまた損害を払わせた。
 其
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