に来て、涙を流して白に別れた。田圃を通って、雑木山《ぞうきやま》に入る岐《わか》れ道まで来た時、主人は白を抱き上げて八幡下に立って遙《はるか》に目送して居る主婦に最後の告別をさせた。白は屠所の羊の歩みで、牽かれてようやく跟《つ》いて来た。停車場前の茶屋で、駄菓子《だがし》を買うてやったが、白は食《く》おうともしなかった。貨物車の犬箱の中に入れられて、飯がわりの駄菓子を入れてやったのを見むきもせず、ベソをかきながら白は甲州へ往ってしもうた。

       三

 最初の甲州だよりは、白が赤沢君に牽かれて無事に其家に着いた事を報じた。第二信は、ある日白が縄をぬけて、赤沢君の家《うち》から約四里|甲府《こうふ》の停車場まで帰路《きろ》を探がしたと云う事を報じた。然《しか》し甲府からは汽車である。甲府から東へは帰り様がなかった。
 赤沢君が白を連れて撮った写真を送ってくれた。眼尻が少し下《さが》って、口をあんとあいたところは、贔屓目《ひいきめ》にも怜悧な犬ではなかった。然し赤沢君の村は、他《ほか》に犬も居なかったので、皆に可愛がられて居ると云うことであった。

           *

 
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