家で、係蹄《わな》にかけて豚とりに来た犬を捕ったら、其れは黒い犬だったそうで、さし当《あた》り白の冤は霽《は》れた様《よう》なものゝ、要するに白の上に凶《あし》き運命の臨んで居ることは、彼の主人の心に暗い翳《かげ》を作った。
到頭白の運命の決する日が来た。隣家《りんか》の主人が来て、数日来猫が居なくなった、不思議に思うて居ると、今しがた桑畑の中から腐りかけた死骸を発見した。貴家《おうち》の白と天狗犬とで咬み殺したものであろ、死骸を見せてよく白を教誡していただき度い、と云う意を述べた。同時に白が度々隣家の鶏卵を盗み食うた罪状も明らかになった。
最早詮方は無い。此まゝにして置けば、隣家は宥《ゆる》してくれもしようが、必《かならず》何処《どこ》かで殺さるゝに違いない。折も好し、甲州《こうしゅう》の赤沢君が来たので、甲州に連れて往ってもらうことにした。白の主人は夏の朝早く起きて、赤沢君を送りかた/″\、白を荻窪《おぎくぼ》の停車場《ていしゃば》まで牽《ひ》いて往った。千歳村《ちとせむら》に越した年の春もろうて来て、この八月まで、約一年半白は主人夫妻と共に居たのであった。主婦は八幡下まで送り
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