かみさんが来て、此方《こちら》の犬に食われましたと云って、汚ない風呂敷から血だらけの軍鶏《しゃも》の頭と足を二本出して見せた。内の犬は弱虫で、軍鶏なぞ捕る器量はないが、と云いつゝ、確に此方の犬と認《みと》めたのかときいたら、かみさんは白い犬だった、聞けば粕谷《かすや》に悪《わり》イ犬が居るちゅう事だから、其《そ》れで来たと云うのだ。折よく白が来た。かみさんは、これですか、と少し案外の顔をした。然し新参者《しんざんもの》の弱身で、感情を傷《そこな》わぬ為|兎《と》に角《かく》軍鶏の代壱円何十銭の冤罪費を払った。彼《かれ》は斯様な出金を東京税《とうきょうぜい》と名づけた。彼等はしば/\東京税を払うた。
 白の頭上には何時となく呪咀《のろい》の雲がかゝった。黒が死んで、意志の弱い白はまた例の性悪《しょうわる》の天狗犬と交る様になった。天狗犬に嗾《そそのか》されて、色々の悪戯も覚えた。多くの犬と共に、近在《きんざい》の豚小屋を襲うと云う評判も伝えられた。遅鈍な白《しろ》は、豚小屋襲撃引揚げの際逃げおくれて、其|着物《きもの》の著《いちじる》しい為に認められたのかも知れなかった。其内村の収入役の
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