ると、何ものか影の如く走《は》せ去《さ》った。白は後援を得てやっと威厳《いげん》を恢復し、二足三足あと追《おい》かけて叱《しか》る様に吠えた。野犬が肥え太った白を豚と思って喰いに来たのである。其様な事が二三度もつゞいた。其れで自衛の必要上白は黒と同盟を結んだものと見える。一夜《いちや》庭先《にわさき》で大騒ぎが起った。飛び起きて見ると、聯合軍は野犬二疋の来襲に遇うて、形勢頗る危殆《きたい》であった。
白と黒は大の仲好《なかよし》になって、始終共に遊んだ。ある日近所の与右衛門《よえもん》さんが、一盃機嫌で談判《だんぱん》に来た。内の白と彼《かの》黒とがトチ狂うて、与右衛門の妹婿武太郎が畑《はたけ》の大豆を散々踏み荒したと云うのである。如何して呉《く》れるかと云う。仕方が無いから損害を二円払うた。其後黒の姿はこっきり見えなくなった。通りかゝりの武太《ぶた》さんに問うたら、与右衛門さんの懸合で、黒の持主の源さん家《とこ》では余儀なく作男《さくおとこ》に黒を殺させ、作男が殺して煮《に》て食うたと答えた。うまかったそうです、と武太さんは紅い齦《はぐき》を出してニタ/\笑った。
ある日見知らぬ
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